BIG SHADOW PROJECT

最近の広告はややこしい。
やれインテグレーテッドだ、クロスメディアだ、クロスコミュニケーションだとメディアの扱い方がスゴイ複雑になってきた。

で、ちょっとインテグレーテッドキャンペーンを一例挙げて、キャンペーンのワークフローを追ってみる。それによってインテグレーテッドキャンペーンを成功に導く能力とは何なのかを探ってみようと思う。

取り上げるのは「BIG SHADOW PROJECT」。

Big Shadow

このキャンペーンを選択したのは、ちょっと古いけどこの事例が扱うメディア、双方向性においてこれまでの広告とは明らかに異なりつつも比較的シンプルな構造を持っていると思ったから。

概要

BIG SHADOW PROJECT」は、XBOX360専用ソフト「BLUE DRAGON」のプロモーションの為のインスタレーションイベント。XBOX360専用ソフト「BLUE DRAGON」は、主人公の影がドラゴンとなって戦うゲームソフト。

で、このゲームの重要な要素である影に着目して、街にいる人たちの影をビルにリアルタイムに投影し、その大きな影で遊んでもらおうというのがこの企画。自分の影が巨大になったり、突然ドラゴンに変化したりすることで、普通の影とはちがったインタラクティブな遊びを体験できる。さらに、ネット上のサイトでは現場のWEBカメラを通した映像を見ながら影を操ることもできた。

ワークフロー

まず「ゲームに興味のない人達の間で話題になるような企画を作ってほしい」という依頼がGT INC.に持ち込まれた。

GT INC.

GT INC.のアートディレクター伊藤直樹氏(以下、伊藤)は影を操りながら敵と戦うというBLUE DRAGONのゲームの内容を聞いて、影を使ったインタラクティブ屋外広告のアイディアを思いついた。伊藤はそのアイディアをProjector inc.の河村大馬氏(以下、河村)に相談した。

 

Projector inc.

ここから河村がテクニカルディレクターとして技術面でのサポートにまわることになる。
しかし、河村は伊藤からこの企画のアイディアを持ち込まれた際に実現不可能と伝えた。それはメディアアート的なアプローチでは広告の役割を果たすことは不可能だと考えたから。さらに、それ以前に前例のないような大規模な屋外広告でインタラクティブを実現する事が難しいと伝えた。しかし河村は一旦その案件を持ち帰った。
その後WEB上でShadow Monstersというイギリスのメディアアート作品を発見する。

これを機にBIG SHADOWも技術的に実現可能と判断した河村は伊藤に再提案を図る。ここからようやく企画は発進することとなり、まず影をコントロールするものを作る技術を持つ人間とコンタクトを取る。これにはインスタレーションを活用した企画の実績のあるNON GRIDが抜擢された。

 

NON-GRID

次にこの企画を実現する為の場所探しを屋外チームに委託。このチームにはイベント施工業者や、コンサートなどのイベントを手がける演出家などが参加。この企画を実現する為の場所には、縦長の巨大なスクリーンが設置できる、目撃する人が多数発生する、遠いところからでも目撃できる等の厳しい条件をクリアした場所が必要だった。そしてこの条件をクリアした、うってつけの場所を発見したと屋外広告のチームから連絡が入る。渋谷の取り壊し予定の駐車場だった。

このあとテクニカルチーム、デザイニングチーム、WEBチームが一気に企画を形にしていった。この間、各チーム同士のミーティングは一切なくチーム間のコミュニケーションはすべて河村が請け負った。さらに「毎日のように起こる障害のリカバーと検証がほとんどの仕事だった」と河村が語るように、これまでの事例では起こりえないようなトラブルが頻発した。屋外での騒音の問題、交通の上での機材のセッティング、法律の問題等。
これらの障害を乗り越え2006年12月7日、イベントは決行された。

考察

これを見るようにこの企画が成功した一番の要因は表現のアイディアよりも、メディアの発見、メディアのブレイクスルーだと思う。インテグレーテッドキャンペーンに必要な要素とはこれまでメディアとして扱われていなかった場をもメディアとして捉えることであり、それを実現するには総合的かつ幅広い知識・人脈をもつインテグレーテッド・ディレクターが必要とされるんじゃなかろうか。

結論

最近こういうインテグレーテッドキャンペーンが増えていることを考えると、これからの広告業界ではこれまで以上に幅の広い知識、経験を持った人材が求められるんだろうな。こういうニーズに応えられるようになるためには一点集中の勉強よりも幅広い学習の方が有効だって事ね。

参考